4.禁煙治療にあたっての留意点

 禁煙補助剤投与の有無にかかわらず、禁煙は様々な症状(不快、抑うつ気分、不眠、いらだたしさ、欲求不満、怒り、不安、集中困難、落ち着きのなさ、心拍数の減少、食欲増加、体重増加など)を伴うことが報告されており(文献20)、精神疾患の悪化を伴うことがある。Stapletonらの調査(文献21)によると、英国では2006年12月から2008年8月までの21ヶ月間に50万人のバレニクリン服用者から10例の自殺が報告された。一方、いくつかの仮定をおいて計算したこの期間の喫煙者における自殺の期待値は12例であった。この調査ではバレニクリンと自殺との関連は示されなかったが、2009年にはバレニクリンの添付文書に、「警告」として、下記の記述が追加された。
「禁煙は治療の有無を問わず様々な症状を伴うことが報告されており、基礎疾患として有している精神疾患の悪化を伴うことがある。本剤との因果関係は明らかではないが、抑うつ気分、不安、焦燥、興奮、行動又は思考の変化、精神障害、気分変動、攻撃的行動、敵意、自殺念慮及び自殺が報告されているため、本剤を投与する際には患者の状態を十分に観察すること」
その後、成人喫煙者8,144人による大規模臨床試験EAGLES試験の結果(文献22)、プラセボまたはニコチンパッチと比較した場合、バレニクリンに伴う重篤な精神神経系有害事象の有意な増加はないことが示されたことを受け、2017年に「警告」は削除された。
 また、禁煙による生理的な変化のためテオフィリン、ワルファリン、インスリン等の薬物動態や薬力学が変化するので禁煙補助剤の用量調節が必要になる場合がある(文献23)(図表15)。
さらに、喫煙によりCYP1A2の活性が誘導されるため、禁煙開始後CYP1A2の基質となる薬剤の血漿濃度が上昇する場合など、喫煙と薬の様々な相互作用があるので注意が必要である。2017年に改訂されたバレニクリンの添付文書の「重要な基本的注意」の2(5)を参照のこと。


引用文献
20)Diagnostic and statistical manual of mental disorders (4th edition text version). American Psychiatric Association, (高橋三郎,大野裕,染矢俊幸訳「DSM-IV-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル 新訳版」,医学書院,2004.)
21)Stapleton JA. Do the 10 suicides among those taking the smoking cessation drug varenicline suggest a causal link? Addiction 2009; 104: 864 -865.
22) Anthenelli RM, Robert M., et al. Neuropsychiatric safety and efficacy of varenicline, bupropion, and nicotine patch in smokers with and without psychiatric disorders (EAGLES): a double-blind, randomised, placebo-controlled clinical trial. The Lancet 387.10037: 2507-2520. 2016
23)Zevin S, et al. : Drug interactions with tobacco smoking. An update. Clin Pharmacokinet, 36(6) : 425-438, 1999.

参考文献
1)禁煙治療のための標準手順書
 日本循環器学
 日本肺癌学会
 日本癌学会
 日本呼吸器学会
2)チャンピックス®医療者向け情報
3)チャンピックス®患者向け情報
4)ニコチネル®TTS® 医療関係者のみなさま
5)ニコチネル®TTS® 患者のみなさま
6)ニコチネル® 医療関係者のみなさま
7)ニコチネル® ご使用のみなさま
8)ニコレット® 医療従事者、薬局・薬店向け情報


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