3.各製剤の比較

 禁煙補助剤の使用上の特徴を図表7に示す。
 バレニクリンは飲み薬なので使用法が簡単で、ニコチンを含まず、離脱症状だけでなく喫煙による満足感も抑制し、循環器疾患でも使いやすい。ニコチンパッチは貼り薬なので使用方法が簡単だが、汗をかく、スポーツをする人には使いにくい。ニコチンガムは短時間で効果が発現するので突然の喫煙欲求に対処が可能で、口寂しさも補えるが、歯の状態や職業によっては使いにくい。


 主な有害事象と対処法を図表8に示す。
 バレニクリンは嘔気などの有害事象が多いが、食後に200ml以上の水との服用および対症療法や用量調節で大部分は対処が可能である。ニコチンパッチは皮膚の発赤や痒みが多いが、貼る場所を毎回変えることや対症療法によって軽快する。夜間の不眠に対しては就寝前にはがすようにする。ニコチンガムは口腔内や咽頭刺激感、嘔気、腹部不快が起きることがあるので、かみ方の習熟が必要である。



 禁煙補助剤の有効性については、自力に比べて禁煙補助薬を使った禁煙治療薬を使った禁煙治療を受けると、1ヵ月間および6ヵ月間の継続禁煙率が各々3倍、4倍高まり、ニコチンとバレニクリンでは6ヵ月間の継続禁煙率が各々4倍、6倍高まることが報告されている(文献6)(図表9)。


 これまでの研究結果をメタアナリシスした成績によると、プラセボ群に比べて、ニコチン製剤を用いた群では1.60倍禁煙しやすく(文献7)、 バレニクリン群では2.24倍禁煙しやすい(文献8)と言える(図表10)。 バレニクリンとニコチン製剤の有効性の比較は、直接比較した成績ではないが、バレニクリンはニコチンパッチに比べて1.5倍、ニコチンガムに比べて1.7倍禁煙しやすいと報告されている(文献9)。また、ニコチン製剤を併用した場合については、バレニクリンと比較して禁煙成功のオッズ比に差がないことが報告されている(文献9)。その理由は以下のとおりである。ニコチンを持続的に補給するニコチンパッチは禁煙後のニコチン離脱症状を全体的に緩和するものの、突然生じる強い喫煙欲求(breakthrough craving)の抑制効果は十分でない。しかし、breakthrough cravingの抑制効果がある急速補給型のニコチン製剤(ニコチンパッチ以外の剤形)を併用することにより、離脱症状のコントロールがよくなり、禁煙率が高まると考えられている。

 Aubin H.J.らによると、バレニクリン群とニコチンパッチ群との治療期最後4週の禁煙持続率の比較では、バレニクリン群が55.9%、ニコチンパッチ群が43.2%で、オッズ比が1.70であった(文献10) (図表11)。



 中医協の診療報酬改定結果検証に係る特別調査(平成21年度調査)「ニコチン依存症管理料算定保険医療機関における禁煙成功率の実態調査報告書」(文献11)によると、マルチレベル分析(治療終了9ヵ月後の禁煙継続に影響を与える患者要因や施設要因を調整)の結果、禁煙補助剤として「ニコチンパッチのみ」を使用した患者と比較して「バレニクリンのみ」を使用した患者において禁煙継続の割合が高かった。
 最近発表された大規模臨床試験(EAGLES試験)(文献12)の結果、ニコチンパッチとの直接比較によるバレニクリンの有効性が明らかとなり、ニコチンパッチに比べて9~12週および9~24週の継続禁煙率をともに1.5倍高めることが示された。精神疾患の既往の有無別にみると、既往なしではそれぞれ1.7倍、1.5倍、既往あり1.6倍、1.5倍でいずれも有意に高かった(図表12)。なお、プラセボに比較した同継続禁煙率はそれぞれ3.6倍、2.7倍であった。


 治療方法の決定には、客観的なデータを紹介し、治療者の経験を踏まえて、患者との十分な話し合いに基づくことが望ましい。一般用医薬品の充実により、医療機関で治療を受けるのか一般用医薬品を使って禁煙するのかの選択が必要になる場合が考えられるので、目安を提示する(図表13)。喫煙本数、禁煙する自信、過去に禁煙したときの離脱症状の強さ、精神疾患を有するなど禁煙の困難さ、保険適用要件、医療機関受診可能かどうかなどがポイントになる。



 米国の禁煙治療ガイドライン(2008)(文献13)によると、ニコチンガム、ニコチンパッチの長期間(14週間以上)の使用による禁煙効果も認められている。長期間のNRTの使用は中止するよう勧めるべきであるが、長期間のNRT使用と喫煙再開とを比較すれば健康の観点からは前者が望ましい。また、同じガイドラインは、14週間以上のニコチンパッチとニコチンガムの併用による禁煙効果は、バレニクリンと同等以上だとしている。
 なお、10週間以内であれば、ニコチンパッチを追加処方することは可能である。ニコチンパッチがないと禁煙する自信がない、遅れて禁煙に入ったのでまだ薬が必要な場合などは追加処方を検討することができる。
 12週間のバレニクリン治療を受けた喫煙者において、治療期間中の禁煙期間が短いと治療終了後に喫煙を再開しやすいことが報告されている(文献14) (図表14)。禁煙期間が6週以下と短い場合は、10-11週に比べて3.3倍喫煙を再開しやすい。そのほか喫煙を再開しやすい要因には、年齢が若い、治療終了時点のニコチン離脱症状が強い、過去の禁煙試行経験あり、がある。このような要因が該当する場合は、健康保険の適用外となるが、12週間の追加治療を勧めるのがよい。
 追加治療の有効性については、精神疾患患者では12週間の標準治療後に追加治療を行うことにより、1年後の禁煙率が6.2倍高まることが報告されている(文献15)。一般の喫煙者では追加治療の1年後の効果は1.3倍にとどまるが(文献16)、上述の喫煙を再開しやすい特性(文献14)を有する喫煙者に限れば、その効果が高まると考えられる。
 すぐに禁煙せずに本数を減らしながら禁煙したいと考えている喫煙者には、バレニクリンを標準治療の期間の2倍にあたる24週間処方して、最初の12週間は段階的減煙、その後12週間は禁煙するという治療方法が開発され、その有効性が確認されている。減煙治療を行うことにより、プラセボと比較して6ヵ月後、1年後の継続禁煙率が各々4.6倍、2.7倍(日本人では14.7倍、5.4倍)高まることが報告されている(文献17, 文献18)。これらの追加治療や減煙治療は現在のところ健康保険では認められていないが、保険者による保健事業として実施することが可能である(文献19)。



引用文献
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8) Cahill K, Stead LF, Lancaster T: Nicotine receptor partial agonists for smoking cessation. Cochrane Database of Systematic Reviews 2016, Issue 5.
9) Cahill K, Stevens S, Perera R, et al: Pharmacological interventions for smoking cessation: an overview and network meta-analysis. Cochrane Database of Systematic Reviews 2013, Issue 5.
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11)厚生労働省中央社会保険医療協議会総会: 診療報酬改定結果検証に係る特別調査(平成21年度調査)ニコチン依存症管理料算定保険医療機関における禁煙成功率の実態調査報告書.2020
ニコチン依存症管理料算定保険医療機関における禁煙成功率の実態調査報告書
12)Anthenelli RM, Benowitz NL, West R, et al: Neuropsychiatric safety and efficacy of varenicline, bupropion, and nicotine patch in smokers with and without psychiatric disorders (EAGLES): a double-blind, randomised, placebo-controlled clinical trial. Lancet 2016; 387: 2507-2520.
13)Fiore MC, Jaén CR, Baker TB, et al. Treating Tobacco Use and Dependence: 2008 Update. Clinical Practice Guideline. Rockville, MD: U.S. Department of Health and Human Services. Public Health Service. May 2008.
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19)中村正和, 川畑輝子, 増居志津子, 他: 病院職員を対象とした禁煙補助薬の新しいエビデンスに基づいた治療の試み−健康保険組合とコラボした充実した禁煙治療メニューの提供とその効果の検討−. 月刊地域医学 32(8) 687-695, 2018.

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