4.禁煙治療にあたっての留意点−禁煙補助剤の妊婦・授乳婦への使用について
 わが国では禁煙補助剤としてニコチンパッチ、ニコチンガム、バレニクリンが使用可能である。これらの薬剤は禁煙後まもなく出現する離脱症状を緩和して禁煙率を約2〜3倍高める。また、バレニクリンは喫煙の満足感を抑制する作用もある。
 しかし、わが国では現在のところ、ニコチンパッチとニコチンガムは、ニコチンの胎児への安全性が確立していないこと、乳汁に移行することなどから、妊婦、授乳婦への使用は禁忌となっている。また、バレニクリンについては妊婦や授乳婦は禁忌となっていないが、国内外での臨床試験のデータがないことから本薬剤の安全性が確立していないため使用することは難しい状況にある。
 一方、母乳授乳をおこなっていない産婦や母乳授乳を終了した産婦、さらに妊産婦の家族については、これらの薬剤の適応となるので、薬剤の使用を積極的に勧めるのがよい。

【コラム】妊婦、授乳婦へのニコチン代替療法
 2005年の英国医薬品安全性委員会の報告書(文献2)によれば、ニコチン製剤の適応を妊婦、授乳婦にも拡大する方向性が示されている。まず薬剤を使用しないで禁煙を試みて禁煙できなかった者が適応となる。2021年の英国国立医療技術評価機構(NICE)のガイドライン(文献3)では、ニコチン製剤のその後の有効性や安全性、費用効果性のエビデンスに基づいて、妊婦初期からニコチン製剤を行動科学的サポートに組合せて使用することが推奨されている。また、出産または流産後のニコチン製剤の使用についても、喫煙再開防止の観点から推奨がなされている。ただし、妊婦や授乳婦へのバレニクリンやブプロピオンの使用は推奨されていない。
 一方、2008年に改訂された米国保健省の禁煙治療ガイドライン「タバコ使用と依存の治療」(文献4)では、妊婦の禁煙治療におけるニコチン製剤の有効性や安全性についてはまだ確立していないという立場で禁煙補助剤の使用を推奨していない。その後、米国医療研究品質庁(AHRQ)が2021年に公表した禁煙治療の有効性や安全性に関するレビュー(文献5)においても、研究数の少なさや研究の質の問題を理由に禁煙補助剤の使用は推奨されていない。
 わが国では上述したように、ニコチンパッチ、ニコチンガムともに妊婦または妊娠している可能性のある婦人、授乳中の婦人には使用しないこととされているため、もし医師の裁量として使用する際には、適応について十分に検討することと、妊婦・授乳婦への十分な説明と同意が必要であろう。妊婦へのニコチン製剤の使用にあたっては、ニコチンの胎児脳への神経毒性などを考慮して、できるだけ妊娠早期に使用し、使用期間を2-3ヵ月と限定することや、ニコチンを持続的に補給するニコチンパッチではなく、ニコチンの補給量や時間を調節できるニコチンガムなどの短時間作用型の剤形が推奨されている(文献2,3)。もしニコチンパッチを使用する場合は、就寝前にはがすことが推奨されている。一方授乳婦に対しても短時間作用型の剤形の使用を原則として、ニコチン製剤の使用と授乳との時間を空けるよう推奨されている(文献2,3)。


引用文献
2) Committee on Safety of Medicines (CSM) and Medicines and Healthcare Products Regulatory Agency (MHRA). Report of the Committee on Safety of Medicines Working Group on Nicotine Replacement Therapy. London: MHRA and CSM. 2005.
http://www.mhra.gov.uk/home/groups/pl-a/documents/websiteresources/con2023239.pdf)
3) NICE. Tobacco: preventing uptake, promoting quitting and treating dependence(NG209), 2021.
4) Fiore MC, Jaen CR, Baker TB, et al. Treating tobacco use and dependence: 2008 update. Clinical Practice Guideline. Rockville: US Department of Health and Human Services. Public Health Service. pp165-173, 2008.
5) Patnode CD, Henderson JT, Melnikow J, et al. Interventions for Tobacco Cessation in Adults, Including Pregnant Persons: An Evidence Update for the U.S. Preventive Services Task Force: Evidence Synthesis No. 196. AHRQ publication No. 20-05264-EF-1. Rockville: Agency for Healthcare Research and Quality; 2021.


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